清宮の通算本塁打に疑問符
コラム【プロ野球人物研究 対岸のヤジ】
早実高3年の清宮幸太郎が話題だ。1年時から怪物スラッガーとして注目されていた彼は、
5月7日現在で高校通算92本塁打を記録。大阪桐蔭高時代の中田翔が記録した87本を抜き、歴代4位に食い込んでいる。
テレビのニュースなどは清宮の高校通算本塁打を大きく取り上げ、同1位の107本(2012年に神港学園の山本大貴が記録)を塗り替えるのではないかと騒ぎ立てている。
高校通算本塁打とは確かに大衆受けしそうなフレーズだが、私はヤボを承知であえて注文をつけたい。これには“練習試合”で放った本塁打も含まれているからだ。
清宮の場合、通算92本のうち実に71本が練習試合であり、公式戦では21本にすぎない。また、高校野球の最高峰である甲子園では1年の夏に放った2本だけだ。
もちろん、清宮の将来性は素晴らしいのだろうが、だからといって記録に厳密さを欠いていいわけではない。
本来、野球の記録とは「東京六大学通算」だとか「東都1部通算」だとか、同一組織内の公式戦だけでカウントされるものであり、練習試合も含むなんて聞いたことがない。
プロ野球の通算記録にオープン戦を含むようなものだ。
しかも、よりによって高校同士の練習試合である。当然、時には格下と試合をすることもあるだろうし、相手投手が練習のつもりで投げてくることもあるだろう。
ましてや、近年は野球人口の激減により、一部の強豪校が数少ない有望選手を奪い合っているような時代だ。一方で、他の高校は実力不足どころか選手不足にも陥っており、かくして高校間の野球格差はみるみる広がっている。
そういう格差時代の練習試合では、余計に強豪校の主砲は快打を連発できるだろう。実際、高校通算本塁打で清宮より上位にいる3人は、いずれも10年以降に高校を卒業した選手である。すなわち、同記録は近年やけに更新されているのだ。
しかも、先述した同1位の山本と3位の伊藤諒介(94本/10年)はどちらも兵庫県の神港学園である。同校は新鋭の強豪で、練習試合を多く組むことで知られているため、そりゃあ通算本塁打も増えるだろう。
ちなみに、2人ともプロ入りはしていない。2位の初芝橋本・黒瀬健太(97本/15年)はソフトバンクに入団したが、ドラフト5位である。要するに、近年の高校野球格差時代においては、練習試合でいくら打っても、プロからは評価されないのだ。
もちろん、大メディアもこれくらいのことはわかっているはずだ。わかっていながら、世間の関心欲しさに清宮の高校通算本塁打数を大きく報じて、17歳の少年を過剰に持ち上げているのだ。なんとまあ、あこぎというか、せこいというか。
▽山田隆道(作家)1976年、大阪生まれ。「虎がにじんだ夕暮れ」などの小説を執筆する他、プロ野球ファンが高じて「粘着!プロ野球むしかえしニュース」などの野球関連本も多数上梓。
MBSラジオ「亀山つとむのかめ友Sports Man day」など野球情報番組のコメンテーターとしても活躍中。
日刊ゲンダイDIGITAL / 2017年5月10日 9時26分
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